fuuri.net

Home > つぶやき > 7年経って…

2010年1月21日

7年経って…

Category:[ つぶやき ] Tag:[ ]

今まで36年生きてきた中で、私はあんまり「後悔」というものはしてこなかったと思っています。後悔するより先に、前に進んでしまうことが多かったんです。ポジティブというよりは、やってしまったことを後悔に変えたくないという意地だったのだろうな、って気がします。

そんな私が、ずっと後悔し続けていることがあります。

あれから、7年が経ちました。
私の後悔は、今も消えていません。きっと一生、消えません。
あの日から、ずっと。

———

私がまだ今の仕事を始める前、一応OLさんだったころの最後の仕事は、とある病院の電算室に常駐し、病院内で職員や医師が使うシステムの画面設計と、動きをつくることでした。

VBで作られた独自システムで、Movable Typeのような感じの独自タグが存在していました。私は派遣社員だったのですが、そのツールを扱うエキスパートという位置づけにいつの間にかなっていて、お客さんとの打ち合わせも直接やったりしていましたし、使い方を教えたりもしていました。

ずっと、私一人で電算室にこもって仕事をしていて、全面的にその仕事は任されていたのですが、派遣社員一人に任せているのはまずいということになったらしく、社員が一人常駐することになりました。

やってきた彼女は、自分のことを「おちこぼれ」と言っていました。
おちこぼれたからこの病院にきたのだ、と。

この会社はもともとはこういう開発をするところではなく、パソコンの使い方を教えたり、マニュアルを作ったりするような会社で、彼女もインストラクターをしていたはずなのに、まったく違う仕事で、私のおもりをさせられるわけなので、そう思っても無理はなかったのでした。

でも、彼女はぜんぜん、まったく、「おちこぼれ」ではありませんでした。
私よりも年下でしたが、インストラクターとしての実力も、マニュアルの作り方もすばらしかった。私は彼女に、たくさんのことを教えてもらいました。

そしてまた彼女も、まったく畑違いの仕事に一生懸命取り組んでいました。彼女の吸収力はとても早く、あっという間に、あれこれ言わなくても一緒に開発ができるようになっていきました。ほんと、ツーカーな感じでした。面白いくらいに。

人間的にもとてもいい人で、病院の職員の人たちを和ませるのがとても上手でした。おもしろいことが大好きで、お笑いとかドラマとかの話をよく私にしてくれました。私はテレビを見ないのであまりわからなかったのだけど、彼女の話を聞いているだけで楽しかったです。彼女のおかげで、当時の自分の視野が広がったような気がします。

サーバーがたくさんあったため、夏でも冷房をがんがんかけ、コートを着るような寒さの電算室の中で、朝9時から、時には終電近くまでずっと2人きりということもしょっちゅうでした。それでも、とても居心地が良く、仕事がとても楽しかったです。

私は、仕事とプライベートをきっちり分けてしまうほうで、「会社の友達」とかそういう言い方にとても違和感があったんですが、彼女は、仕事が終わってからもメールをやりとりするような、今振り返っても人生で唯一の「会社でできた友達」でした。

———

ある日、彼女が私に言いました。
「ふじかわさんに初めて言うんですけど…結婚して、仕事をやめようと思うんです」
衝撃はありませんでした。
彼女がこの病院に異動になってからずっと考えていたことを知っていたから。

彼女はずっと、迷っていました。このままだと、インストラクターとしてのキャリアパスが途絶えてしまう。別の場所で、インストラクターとしての道を模索できないか、と。

その話を当時の彼氏にしたら、「んじゃ、オレと結婚するということにしてやめれば、丸く収まるんじゃないの?」と提案され、結婚退職を決めたのでした。今思えば、なんてやさしいプロポーズなんでしょう。彼女が「にいさん」と呼んでいたその彼は、彼女の話を聞く限りとてもユーモアがある人で、とても彼女にお似合いに思えました。

ちょうど同じころ、私はデジハリに通い始めました。通う期間が半年で、半年後がちょうど派遣の更新期限だったこともあり、私も会社をやめるつもりでいました。当時結婚3年目だった私は、ベテランのような顔で彼女にいろんなことをアドバイスしたりしながら、退職の計画を2人で秘密裏に進めていました。

会社をやめたのは、彼女が少しだけ先でした。
退職するとき、私は彼女に、熊のぬいぐるみをプレゼントしました。なんとなく、お店で見かけたときに、これは彼女にあげるべきだと直感したのです。それを見た彼女が「これずっとほしかったんです!」とものすごく感激してくれたとき、なんだか不思議な縁を感じました。彼女も同じように、強い縁を感じたと言ってくれました。

それからすぐあとに、彼女の結婚式がありました。結婚式での彼女はとてもとても幸せそうで、見ているだけで涙が出ました。私を(同僚ではなく)友人として呼んでくれたことが、本当にうれしかったです。

———

彼女が結婚して、ちょうど2周年の記念日。
急性骨髄性白血病と診断された、これから入院する、というメールがきました。

入院後も、無菌室の中から彼女はメールを送ってくれていました。彼女のメールは、いつも基本的には明るいものでした。看護婦さんはとてもやさしいとか、退院したら一緒に仕事したいとか、そういうことをいつも書いてました。ただ、抗がん剤治療がとてもきついこともあったようで、たまーに「めげそうです。いや、めげてます」という表現もありました。

彼女は、辛いときに辛いと言うタイプではな いので、それがどれだけ辛いものであったか…と思うと、なんと言葉をかけていいのかわかりませんでした。でもできるだけふつうに、どんな言葉 が彼女を支える力になるだろうと考えながら、メールをしていました。

当時の私は、フリーランスの仕事が軌道に乗ってきて、睡眠時間もろくにとれないくらいの忙しさでした。彼女へのメールの優先順位を上げようとがんばっていたのですが、1週間後とかに返事を書くので精一杯の状態でした。だけど彼女はいつも、そんな私の体を気遣うメールをくれました。私のことを心配している場合ではないのに!

そのうち、彼女はだんだん体調が良くなり、とりあえず一時退院しました。彼女はもともとスキーが好きで、退院後スキーに行ったよーという報告もありました。その後、お姉さんの骨髄を移植することになったというメールが来ました。移植できる状態になってよかった!と私は喜びましたが、もう彼女は大丈夫だ!と思っていたこともあって、それに返事をしていませんでした。

「落ち着いたらまた連絡しますね。いってきます!」という、ほんとうに、普通のメールだったから、だから…それが最後になるなんて、思わなかった。

本当に、まったく、思わなかった……。

———

骨髄移植をした3週間後、彼女は息を引き取りました。
それを知ったのは、それから5ヶ月もあとのことでした。だんなさんからはがきをいただいたのです。

はがきを出すまでの5ヶ月間、だんなさんはどんな気持ちだったんだろうと考えると、もう、なんかいてもたってもいられなくなって、彼にメールを出しました。多分、文章もしどろもどろで、何を書いているのかわからないようなものだったと思います。(でもちゃんと返事をくれた。すごくいい人だ)

泣いて泣いて泣いて、泣きまくりました。
「いってきます!」の言葉の意味をまったく理解していなかった自分に腹がたちました。彼女らしい「覚悟」の表現だったことにもぜんぜん、ぜんぜん、気づかなかった私……。

いくとこは、そこじゃないでしょ!!!!!と無意味に切れたりしながら、とにかくとにかく、自分を責めました。それ以来、私は、彼女が入院してからのメールを読むのが怖くなり、まったく読めなくなっていました。

———

あれから、7年。私はあれ以来初めて、彼女とのメールと向き合いました。

彼女が私にくれた長文のメール。あれだけの長さのメールを書くのは、きっとものすごい時間がかかっていたことでしょう。もしかしたら、メールを書いていた相手は、私一人だったかもしれない。それなのに私はろくに返事も返さず、なんて、なんて、冷たい友達なんだろう。今でも、ことあるごとに、彼女の顔が浮かびます。いつもおだやかに笑っているのですが、それが逆に、私をずっとずっと後悔させるのです。

ごめんなさい。ほんとうに、ごめんなさい。

結婚してすぐ、だんなさんの転勤で大阪に引っ越した彼女のお墓は、きっと大阪にあります。まだ、私は一度も彼女のお墓参りに行っていません。だんなさんに聞く勇気が今までなかったのです。

でもこの7年で、自分にもいろいろな出来事があった今、彼女と話しに行こうかな、って気持ちになってきています。
今でも彼女が作ったサイトを大事に維持して、問い合わせ先もきちんと書いているだんなさんに、メールを書いてみようって思います。

彼女と向き合うことは、たぶん、自分と向き合うことにも通じている。
なんとなく、そんな気がしています。

この記事へのコメント・トラックバック

[...] This post was mentioned on Twitter by 磯野 さざえ, coo. coo said: 「7年経って…」を読んだよ! → http://am6.jp/7faWdM /by @fuuri /via @feedtweet [...]

ピンバック by Tweets that mention 7年経って…|fuuri.net -- Topsy.com — 2010年1月21日 5:19 AM

この記事のトラックバックURL

コメントをどうぞ!

Copyright 2008 Mayuko "fuuri" Fujikawa. All rights reserved.